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Thursday, November 14, 2013

「米軍基地は平和や人権を脅かしている」: ピーター・カズニック氏の沖縄でのインタビュー(『けーし風』80号から転載)

前投稿では、『けーし風』80号(2013年10月10日発行)に掲載された、名護市議の東恩納琢磨氏によるオリバー・ストーン監督の名護訪問記を紹介しました。同じ号から、ストーン監督とのドキュメンタリーと書籍 The Untold History of the United States (日本語版は「もう一つのアメリカ史」NHKが放映・DVD日本語字幕版は角川書店から12月20日発売予定書籍は早川書房から出版)を共作したアメリカン大学の歴史学者ピーター・カズニック氏のインタビュー記事を許可を得て紹介します。このインタビューは8月14日沖縄コンベンションセンターで1700人の聴衆を集めて開催された『オリバー・ストーン 基地の島 OKINAWAを語る」(琉球新報社主催、沖縄テレビ放送協力)の直後に行われました。(大田昌秀元沖縄知事なども登壇いただき行ったこのシンポジウムの動画はここにあります。http://www.youtube.com/watch?v=JjzGRj1u7IY

(文中の画像はブログ運営人が挿入したものです。)
 
 
《インタビュー》
 
『もうひとつのアメリカ史』の歴史意識

         ―ピーター・カズニック氏にきく

           聞き手=編集部(宮城公子・若林千代)

 去る八月一四日夜、琉球新報社創立一二〇周年記念事業として開催された「オリバー・ストーン 基地の島OKINAWAを語る」シンポジウムの終了後、わずかな時間ではあったが、ストーン監督とともに沖縄訪問中のピーター・カズニック(Peter Kuznick)氏にお話をうかがった。
ピーター・カズニック氏

 カズニック氏は、日本でも衛星放送などで放映され、注目を集めているテレビ・ドキュメンタリー番組『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史(The Untold History of the United States)』シリーズの共同制作者であり、その元となる歴史資料を分析した書籍版(早川書房、二〇一三年)の執筆者である。現在は、ワシントンDCにあるアメリカン大学歴史学部で教鞭をとり、同大核問題研究所の所長をつとめる。一九四八年ニューヨークに生まれ、ラトガース大学で博士号を取得。アメリカの核政策の歴史や冷戦史を専門とし、冷戦文化や一九三〇年代アメリカにおける科学者運動などに関する著書がある。毎年学生を広島や長崎での研修に引率するなど、越境的に核問題を学習に取り入れ、政策的な分析のみならず、現場との長い交流を続けてきた。カズニック氏の著書は、日本語では、『もうひとつのアメリカ史』の他に、『広島・長崎への原爆投下再考―日米の視点』(木村朗と共著、乗松聡子訳、法律文化社、二〇一〇年)、『原発とヒロシマ―「原子力平和利用」の真相』(田中利幸と共著、岩波書店、二〇一一年)の二冊の著書がある。 

― ドキュメンタリーとともに著書のなかで、カズニックさんは、ヘンリー・ウォレスのような、主流のアメリカ史ではほとんど注目されなくなった政治家に光を当てておられます。ウォレスは平和や貧困問題に深い関心を寄せ、二〇世紀は「人々の世紀」でなければならないと言いました。しかし、第二次大戦末期には、政党内部の政争や冷戦の序曲のような空気のなか、ハリー・トルーマンが副大統領となり、ソ連の成長を恐れ、イギリスとの関係を深めて原爆を使用し、ルーズベルトの死後の冷戦的状況を生み出す素地を作ってしまいました。こうした歴史への視点は、アメリカでは一般的ではありませんね。
早川書房の日本語版
書籍第一巻(全三巻)

カズニック ウォレスはとても興味深い人物で、平和と社会公正の視点をもっていました。ウォレスは、ルーズベルト大統領の下、ニューディール政策にかかわり、一九三三年から四〇年に農務大臣を務め、四五年から四六年に商務大臣でした。また、副大統領をつとめましたが、これはあまり注目されません。しかし、彼は、冷戦が深まるにつれ、実際に政治の場から追いやられたのと同時に、歴史叙述のなかでもとるに足らない人物として扱われるようになります。

― 本書では、アメリカの広島・長崎への原爆投下がひとつの柱となって、アメリカ外交史の問題が描かれています。原爆の問題は、現在では福島原発事故にも歴史的につながっていると思いますが、この点はどのようにお考えでしょうか。また、沖縄のような米軍基地のある地域との関係はいかがでしょうか。

カズニック とても大きな質問ですね。まず、原爆投下は、我々の時代の最も暗闇の部分と言えるでしょう。アメリカは原爆に大きく依存した国家です。トルーマン政権下で原爆が投下されましたが、原爆に関する政策が本格化するのはアイゼンハワー政権です。アイゼンハワーは、通常の兵器を維持するのはコストがかかり過ぎるが、原爆はそれより安価だとして、核兵器を増やしていきます。政権発足時にはおよそ一〇〇〇個の核兵器を保有していましたが、彼が政権を去るときには二三、〇〇〇個にまで達していました。
角川書店のDVD日本語字幕
版(12月20日発売)

 アイゼンハワー政権時代は冷戦の時代ですが、ソ連と対抗していると言っても、保有する核兵器でおよそ六億人を殺傷できると言われていました。アイゼンハワーは核開発計画を人びとに容認させるために「核の平和利用」を提起します。エネルギー利用など、「平和的な核」を人びとに受け入れさせようとします。それが日米関係のあり方にも反映されていきます。日米政府は原子力発電を作りたいと考えますが、日本には、広島や長崎の被爆経験があり、日本の人たちには核に対する強い反対がありました。とくに、一九五四年の第五福竜丸事件の後はそうでした。結局、日本人の大半は核を嫌っているため、正力松太郎(読売新聞社長)のような人物を使ってCIA工作などがあり、日本人に原発計画を容認させていきます。この歴史は福島原発とも深く関連しています。また、米軍基地の役割というものは、こうした構造とかかわっているでしょう。例えば、一九七二年に沖縄返還がありますが、その際、当時の佐藤栄作首相はアメリカと核密約を結びます。

― 本書を手にしたとき、アメリカの有名な歴史家であるハワード・ジンの『民衆のアメリカ史(People's History of the United States)』(日本語訳は明石書店より刊行)を思い出しました。ジンはアメリカ民衆が民主主義や社会公正をどのように求めたのか、さまざまな社会集団やエスニック・グループの動きを総合的にとらえて描きました。ジンの著作が民衆史だとすれば、本書は同じような視点でアメリカ政治史と外交史を描いたもののように感じました。

カズニック その通りですね。もちろん、ジンのものは、ボトムアップするような、いわば「下からの視点」でアメリカ民衆の抵抗の歴史を描きます。大変に重要な仕事です。対して、私たちの仕事はいわば「上」のほうにあるものの動きというか、国家安全保障にかかわる政治家や権力側の動きを追ったものです。ハワード・ジンは残念なことに二〇一〇年に亡くなりましたが、オリバー・ストーンとの「もうひとつのアメリカ史」のプロジェクトには大変共感してくれて、「ビッグ・ファンだ」と言って応援してくれていました。

― 『もうひとつのアメリカ史』がテレビで放映されたり、また、書籍版が出版されたりして、アメリカ国内での反応はどうでしょうか。とくに学生や若い世代の反応はいかがですか。

カズニック たくさんの人がテレビ番組を見てくださいましたし、本も読んで関心を寄せてくださっています。「今まで何も知らなかった」「アメリカへの見方が変わった」という声が届いてきます。ただ、若い世代のアメリカの歴史意識を変えるには、まだまだ力が及ばないということを正直に申し上げなければならないでしょう。私たちは努力しなければなりません。希望なのは、反応のあった一人ひとりというのは、深い洞察によってアメリカの歴史、世界でのアメリカの位置、他の社会からどのように見られているのか、戦争について、いろいろな意味で強く反応してくれていることです。
8月14日沖縄でのシンポジウムで発言する
カズニック氏(パネルの左から3番目)。

― 国家や権力政治に都合のよい歴史観の強制や歴史意識の軽視は、日本でも問題ですし、世界的傾向です。そのようななかで、本書は、政治史や外交史を描きながらも、ヘンリー・ウォレスの言葉を借りれば「人びとの世紀」という視点、あるいは、民衆の視点を活かして政治の真実、その光と影を描こうとしています。そうした「人びとの世紀」ということを考えると、今、アメリカのごく普通の人びと、平和を求める人びとは、沖縄の市民や、あるいは世界各地でアメリカの覇権の下で苦悩する人びととの間に、どのような結びつきや相互の連帯を築くことができるでしょうか。また、どのような実践が期待できますか。

カズニック 本当にあまりにもひどいことですが、今、アメリカの平和運動というものは大変に力がありません。もちろん、さまざまな形で平和や公正を求めてたたかっている人たちはいます。アメリカ国内も経済格差や社会問題がひどく、人びとは苦しんでいます。ですから、二〇〇八年の大統領選挙では、「変化(We Can Change)」と掲げて登場したバラク・オバマを人びとは支持し、結集して、彼を大統領に選びました。オバマはイラク戦争にも抵抗していました。しかし、実際にオバマ政権の下で起きたことは、社会の進歩的勢力の破壊と分裂です。これは大変に苦しい局面です。たとえば、ブッシュ政権で成立し、そのままオバマ政権が継続し、強化している「愛国者法(Patriot Act)」のようなものは、社会の公正や自由を窒息させる機能を果たしている面があるのです。ですから、オバマ政権への失望感というものはとても大きいのです。

 しかし、そういう状況であれば尚更のことですが、人びとは歴史に目を向けなければならないでしょう。とくに沖縄との関連で言えば、アメリカが世界各地に展開している軍事基地の問題は、各地で現地の社会の平和や人権を脅かし、社会正義を踏みにじっています。シンポジウムのなかでも触れましたが、オバマ政権は二一世紀を「太平洋の世紀(Pacific Century)」と位置づけ、オーストラリアに海兵隊を移駐させ、沖縄や韓国、日本、フィリピンなどを結んで、米軍基地網を強化しています。ディエゴ・ガルシア島やアフリカ、もちろん中東の問題は深刻です。また、「アラブの春」やオキュパイ運動、沖縄でも反基地運動があり、「アメリカ帝国」への抵抗や資本主義の暴走や搾取への抵抗でつながっています。しかし、アメリカの多くの市民はこうした地域でアメリカが何をしているのかについて、ほとんど何の知識もない場合が多いのです。

 ですから、ドキュメンタリーや本、教育は、一つひとつは小さいことでも、歴史的な事実をきちんと伝えていく必要がありますし、また、今回、私やオリバーが沖縄を訪れているように、海外の平和的な市民と交流する活動も大切だと考えています。
 
8月13日、普天間基地に面する佐喜眞美術館でのレセプションにて、
オリバー・ストーン監督と。
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